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2013年3月11日 (月)

「欲望という名の電車」の舞台

 こうしたタイトルを映画か芝居で聞かれた方もあるのではないか。「欲望という名の電車(A Streetcar Named Desire」はアメリカ南部の都市・ニューオリンズを舞台としたテネシー・ウィリアムズ作の戯曲である。有名なのはヴィヴィアン・リー主演の映画で、古典的な名作となっているし、日本では杉村春子が繰り返し舞台にかけている。

没落した名家の令嬢の生涯を描く物語は、このように始まる。『「欲望Desire」という名の電車に乗って、「墓場cemetery」という電車に乗り換え、6つめの角「極楽Elysian Fields」で降りるの』。星ヶ丘からバスに乗って、「極楽」で降りるのではない。降りるのは、米国・ニューオリンズの「極楽」である。

 ところでこうした地名(停留所名)は、創作上のものかと思っていたら、実際にニューオリンズにある地名という。しかも、「墓場」行の電車は今も走っているのである。

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 電車の方向幕を見てほしい。ちゃんと「CEMETERY(墓場)」と書かれている。実際に後ろには、墓地が広がっている。「墓場」行といっても、ちゃんとした都市の交通機関で、ゲゲゲの鬼太郎の専用車ではなく、もちろん乗客も目玉おやじとかネズミ男ではない。

 ニューオリンズは、米国最大の大河、ミシシッピ川の下流に位置する観光都市で、フランス植民地時代の名残を伝えるフレンチクオーターは観光地として名高いし、また、ジャズのふるさととしても知られる。また、最近ではハリケーン「カトリーナ」で甚大な被害を受けたことで、名前を覚えている方もいるかもしれない。

 このニューオリンズは、路面電車ファンにとってはまさに聖地のような場所である。なんと、1920年代の電車が今も当時のままの姿で走っているのである。

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 セントチャールズ線を走る緑色のこの車両、アメリカのインターアーバン全盛期の1920年代に造られた。美濃町線のモ510形と同じコンセプトにもとずく車両である。座席も板張りで、当時をしのばせる。

 ニューオリンズの路面電車の歴史は古い。馬車鉄道時代を含めると、ニューヨークに次いで、全米2番目の歴史を持つ。しかし、この電車も一時は廃線の危機に瀕し、「欲望」行の電車やメーンストリートであるカナル通りの路線も廃止され、1960年代にはこのセントチャールズ線が残るだけとなっていた。

しかし、全米的な公共交通再評価の流れの中で、観光施設になるとともに、自動車を使わず都市内移動を助ける便利な交通機関として、路面電車を建設することになった。こうして、1988年にミシシッピ川に沿ってフレンチ・マーケットを結ぶリバーフロント線、2004年にカナル通りを走るカナル・ストリート線、そして20131月にはアムトラックの駅や市役所を結ぶロヨラ通り線が開業した。

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 これが最初に開業したリバーフロント線。ミシシッピ川に沿って走り、沿線には観光施設が点在する。

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 路線は貨物線を転用して開業した。現在も、手前の路線には貨物列車が運転されている。

 続いて開業したのは、メーンストリートを走るカナル通り線で、1ブロックの区間はセントチャールズ線と並走する。

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 しょっちゅう、このように並走がみられるわけではない。セントチャールズ線は7~8分間隔、カナルストリート線はほぼ10分間隔だから・・・。

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 これは朝焼けの風景。このカナル通り線の車両は、
外観や内装こそ古く見えるが、冷房も入っていて、実際には新しく製造されたものである。観光都市の路面電車の電車だからこそ、こうしたレトロ電車が似つかわしい。

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 これは開業したばかりのロヨラ通り線。沿線には高層ビルが並び、ビジネス街であることをうかがわせる。

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 これに対して、セントチャールズ線は、1920年代のオリジナルのままである。そのため、この電車は米国の歴史的遺産に指定されている。
この路線の沿線には、映画「風と共に去りぬ」に出てくるような白亜の豪邸が並んでいる。米国南部なので治安が心配な向きもあるかと思うが、この沿線は(たぶん)大丈夫だろう。並木の美しい道路の真ん中に設けられた専用の軌道を走っていて、自動車に邪魔されることもない。

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 板張りの座席の電車に乗って、ゴトゴト揺られ、豪邸が並ぶ風景を見ていると、何十年も前のアメリカの古き良き時代を見ているような感慨にとらわれる。乗って楽しく、写真に写しても風景に映える実に魅力的な電車である。

 ご存知のように、ここニューオリンズは2005年のハリケーン・カトリーナによって甚大な被害を受けた。しかし、今訪れても、当時の惨状を伝えるものはまったくない。2月にはスーパーボールも開催され、全米の目がニューオリンズに集まった。東北地方も、このニューオリンズのようにたくましく復興してくれることを願ってやまない。(駅長)

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コメント

路面電車が似合う街。LRTではなく昔ながらの車両が行き交う風景に安堵感を覚えます。古きよき時代の演出として古めかしい車両の維持もさることながら、新車であれどレトロ調へのこだわりは集電装置にも表れており、感心するばかりです。(出札掛)

投稿: 出札掛 | 2013年3月12日 (火) 11時30分

「欲望という名の電車」、タイトルだけは自分も耳にしたことがあります。物語の中で登場する地名が実在のものとは知りませんでした。美しい街並みを行くレトロな緑色の電車は魅力的です。何よりも驚いたのは赤い電車が最近の新車だということで、てっきり緑色と色違いの車両だと思っていました。国内にもレトロ車両は例が見られますが、どれも中途半端な感じでとても満足のいくものではありません。どうせやるならニューオリンズのように徹底的にこだわる方がよりインパクトがあって効果があると思うのですがいかがでしょうか。最近ではいすみ鉄道がキハ20のコピーのような新車を登場させましたので、追随する鉄道が出てくるのを密かに期待しています。(電車運転士)

投稿: 電車運転士 | 2013年3月12日 (火) 17時29分

 ちょっと言葉足らずでした。赤い電車、新車とはいっても足回りはPCCのものを使っているので、正しくは車体更新車ですね。とはいえ、1920年代の車両と並べても違和感がないので、よくできているといえるでしょう。確かに、レトロ車を造るなら、これくらい徹底させてほしいですね。
 ちなみにこの車両、ADA対応で、身障者の車いすを乗せられるよう、リフトも付いています。(車体真ん中のドアはそのため)。アメリカの車両はADA対応が義務付けられていますが、1920年代の車両は歴史遺産としてそれを免れているようで、路線案内にもそのように記されています。(駅長)

投稿: 駅長 | 2013年3月12日 (火) 17時43分

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